そのメンタルトレーニング、本当に合ってる?
目次
「考え方」を変える前に、子どもたちがやるべきこと。
「メンタルが弱いから試合で活躍できない」
「もっと自信を持ってプレーしなさい」
「失敗を恐れず、ポジティブに考えよう」
スポーツの現場では、こんな言葉をよく耳にします。
最近ではInstagramなどのSNSでも、メンタルトレーニングに関する発信をよく見かけます。
例えば、
「出来事そのものではなく、その出来事をどう解釈するかが大切」
という考え方。
確かに、同じ出来事でも、その受け取り方によって感情や行動は変わります。
ミスをしたときに、「もうダメだ」と考えるのか、「次に修正するチャンスだ」と考えるのか。
この違いは、パフォーマンスにも影響します。
実際に、こうした考え方を変えるメンタルトレーニングには、科学的な裏づけもあります。
しかし、私はスポーツ指導者として、一つ疑問があります。
そもそも、自分の身体すら思うようにコントロールできない子どもに、考え方を変えることばかり教えて、本当に十分なのでしょうか?
私は普段、Garage Gym HIKYOで小学生から高校生までの子どもたちを指導しています。
また、ジム以外でも、スポーツチームを指導する機会があります。
そこで、いつも感じることがあります。
それは、スポーツが得意な子や、競技レベルの高い選手であっても、自分の目や身体を思うように動かせないことが意外なほど多いということです。
例えば、
- 目だけを左右に動かそうとしても、頭まで一緒に動いてしまう
- 動くものを目で追うことが苦手
- 片足立ちをすると、身体が大きくふらつく
- 自分の手足がどこにあるのか、うまく把握できていない
- 複数の情報に反応しながら、身体を動かすことが苦手
こうした課題は、運動が苦手な子だけに見られるわけではありません。
普段の競技では高い技術を発揮している選手でも、基本的な動きを確認してみると、驚くほど苦手なことがあります。
そして、もう一つ。
これは私自身の指導経験から感じていることですが、緊張しやすかったり、気持ちが不安定になりやすかったりする子どもたちに、目の動きや身体のコントロールが苦手なケースが少なくないように感じています。
もちろん、だからといって「目を動かせないことが、メンタルの弱さの原因だ」と決めつけることはできません。
しかし、両者に何か関係があるのではないか。
そして、考え方を変えること以外にも、子どもたちのメンタルを支える方法があるのではないか。
私はそう考えています。
今回は、メンタルと目・脳・身体の関係について、実際の指導経験と科学的な研究をもとにお話しします。
1.メンタルは「考え方」だけで決まるわけではない
そもそも、私たちが感じる「恐怖」「不安」「緊張」「安心」は、どのように生まれるのでしょうか?
一般的には、出来事に対する考え方や解釈が大切だと言われます。
例えば、試合でミスをしたとき。
「また失敗したらどうしよう」と考えると、不安になるかもしれません。
一方で、「次は修正してやってみよう」と考えれば、前向きにプレーできるかもしれません。
これも、メンタルを整える大切な方法の一つです。
しかし、人間の脳は、考え方だけで感情を生み出しているわけではありません。
実は、目や耳、身体から入ってくる情報も、私たちの感情に深く関係しているのです。
私たちの身体には、さまざまな感覚があります。
- 視覚:目で物の位置や動きを捉える
- 聴覚:耳で音や声を聞く
- 触覚:物に触れた感覚や圧力を感じる
- 固有受容感覚:自分の手足の位置や、どのくらい力を出しているかを感じる
- 前庭感覚:身体の傾きや、頭の動きを感じる
- 内受容感覚:心拍や呼吸など、身体の内側の状態を感じる
普段、あまり意識していない感覚も多いと思います。
しかし、私たちはこうした情報を脳で処理しながら、身体を動かしています。
例えば、ボールをキャッチするとき。
ボールの位置や速さを目で確認し、自分の身体の位置を把握しながら、適切なタイミングで手を動かします。
たった一つの動作でも、多くの感覚情報が関係しているのです。
そして、こうした感覚情報は、身体を動かすことだけでなく、不安や恐怖といった感情にも関係していることが研究で示されています。
つまり、メンタルを考えるときには、頭の中の考え方だけでなく、目や身体の働きにも目を向ける必要があるということです。
2.身体をうまく動かせないことが、恐怖や不安につながる?
ここで、一つ想像してみてください。
幅の狭い平均台の上を歩く場面です。
Aさんはバランス感覚がよく、自分の身体を安定させながら歩けます。
一方、Bさんはバランスを取るのが苦手で、少し身体が傾くだけでも大きくふらつきます。
さて、どちらが怖いと感じやすいでしょうか?
もちろん個人差はありますが、Bさんの方が恐怖を感じやすくなることは十分に考えられます。
では、Bさんが怖がるのは「メンタルが弱いから」なのでしょうか?
私は、必ずしもそうではないと思います。
自分の身体をうまくコントロールできないこと自体が、怖さや不安につながっている可能性があるからです。
実際に、目から入る情報やバランスを取る能力と、恐怖や不安には関係があることを示した研究もあります。
例えば、足元が不安定な場所で、いつ転ぶかわからない状況。
自分の身体をうまくコントロールできなければ、当然、不安を感じやすくなるでしょう。
反対に、自分の身体を安定して動かせるようになれば、その状況に対する怖さが小さくなることも考えられます。
これはスポーツでも同じです。
例えば、野球でゴロを捕球するのが苦手な選手。
ボールの動きをうまく捉えられない。
適切な位置に身体を移動させられない。
捕球姿勢を安定させることができない。
そんな状態の選手に、
「エラーを恐れるな!」
「もっと自信を持て!」
と言い続けたところで、根本的な問題は解決するでしょうか?
もちろん、声かけによって気持ちが楽になることもあるでしょう。
しかし、本人が「うまく捕れる気がしない」と感じているのであれば、まずは安心して捕球できるだけの能力を身につけることも必要です。
ボールをうまく捉えられるようになる。
身体を思いどおりに動かせるようになる。
安定して捕球できる回数が増える。
そうすれば、「自分にもできる」という感覚が生まれ、プレーに対する自信につながっていく可能性があります。
考え方を変えることだけが、メンタルを変える方法ではないのです。
3.強豪校の選手でも、身体の基本的な動きが苦手なことは多い
ここは、私が実際の指導を通じて、特に伝えたい部分です。
私はGarage Gym HIKYOだけでなく、学校やスポーツチームでも学生たちを指導しています。
そこで驚かされるのが、競技レベルと身体の基本的なコントロール能力が、必ずしも一致していないということです。
例えば、普段は高いレベルでプレーしている選手でも、
目だけを動かそうとすると、頭まで一緒に動いてしまう。
片足で立とうとすると、身体が大きくふらついてしまう。
簡単そうに見える動作でも、思いどおりに身体を動かせない。
そんなケースは珍しくありません。
つまり、競技の技術が高いことと、身体のすべての機能をうまく使いこなせていることは、必ずしも同じではないということです。
もちろん、片足立ちが苦手だから競技能力が低い、という単純な話ではありません。
目の動きが苦手だから、すぐに試合でミスが増えると決まっているわけでもありません。
ただ、競技を行ううえで必要な能力の中に、まだ伸ばせる部分が残っている可能性はあります。
そして私が特に気になっているのが、メンタル面との関係です。
指導している中で、緊張しやすかったり、ちょっとした失敗で気持ちが乱れやすかったりする子どもに、目の動きの苦手さが見られることがあります。
これは現場での観察であり、科学的に原因と結果を確認できたわけではありません。
ただ、だからこそ私は、メンタルが不安定な子どもに対して、考え方だけを変えようとするのではなく、目の動きや身体の使い方も確認することが大切だと考えています。
「メンタルが弱い」と決めつける前に、身体の側に改善できる課題がないかを見てほしい。
これが、私が今回の記事で最も伝えたいことの一つです。
4.身体を変えることで、メンタルも変わるのか?
では、身体にアプローチすることで、本当に不安や気持ちの状態は変わるのでしょうか?
実は、これについてはさまざまな研究が行われています。
① 運動することで、不安が軽くなる
2023年に発表された大規模な研究では、約12万8,000人分の研究データをまとめて分析した結果、運動が不安や気分の落ち込み、ストレスの軽減に役立つことが示されています。
つまり、運動には筋力や体力を高めるだけでなく、心の状態にもよい影響を与える可能性があるということです。
ただし、これは主に大人を対象とした一般的な運動の研究です。
子どもへのビジョントレーニングに同じ効果があると証明した研究ではありません。
② 呼吸を整えることで、不安が軽くなる
呼吸の仕方を意識的に調整することで、ストレスや不安が軽減することを示した研究もあります。
例えば、緊張したときに呼吸が速くなったり、浅くなったりした経験はないでしょうか。
反対に、ゆっくりと呼吸することで、気持ちが落ち着くこともあります。
呼吸とメンタルは、お互いに影響し合っているのです。
もちろん、呼吸のトレーニングと目のトレーニングは同じものではありません。
それでも、身体への働きかけによって心理状態が変化することを示す一つの例です。
③ 感覚を使ったトレーニングにも研究がある
目や耳、身体からの情報を使いながら、動きや日常生活の能力を育てる「感覚統合」というアプローチがあります。
2025年に発表された研究では、感覚統合のトレーニングによって、自閉スペクトラム症の子どもたちが、それぞれに設定した活動上の目標を達成しやすくなることが示されています。
一方で、イライラしやすさなどの問題が改善するとは確認できていません。
つまり、感覚統合のトレーニングをすれば、誰でもメンタルが安定するというわけではありません。
しかし、その子が苦手としている感覚や動作に着目し、必要な能力を育てていくことには、一定の科学的な根拠があるということです。
私は、こうした研究と日々の指導経験を踏まえて、身体の機能を育てることが、子どもたちの自信や行動の変化にもつながっていく可能性があると考えています。
5.「考え方」を変える前に、身体からのアプローチも考えてみよう
メンタルトレーニングには、考え方から働きかける方法と、身体から働きかける方法があります。
例えば、失敗したときに、
「失敗は成長のチャンスだ」
「次のプレーに集中しよう」
と考え方を変えること。
これを「トップダウン」のアプローチと呼ぶことがあります。
一方で、
- 目をうまく使えるようにする
- バランスを取る能力を高める
- 身体を思いどおりに動かせるようにする
- 呼吸や身体の緊張を調整する
といった、身体や感覚から働きかける方法を「ボトムアップ」のアプローチと呼ぶことがあります。
どちらも大切です。
実際、考え方を変えるトレーニングにも効果を示す研究があります。
しかし、私が疑問に感じるのは、身体を十分に使いこなせていない子どもに、考え方の問題ばかりを指摘してしまうことです。
先ほどもお話ししたように、強豪校の選手でさえ、目や身体の基本的な動きに課題が残っていることがあります。
そのような選手に対して、
「もっと集中しろ」
「自信を持て」
「考え方を変えろ」
と伝えるだけで、本当に十分なのでしょうか。
もちろん、プロ選手であっても身体の課題はありますし、小中高生にも考え方のトレーニングが役立つことはあります。
ですから、どちらが必ず優れているという話ではありません。
ただ、身体のコントロールに課題があるのであれば、そこを改善することも優先的に考えるべきだと思います。
考え方を変える努力をする前に、そもそも自信を持ってプレーできるだけの身体の土台があるのか。
まずは、そこを確認してみませんか?
6.「自信を持て!」より、「自信を持てる経験」をつくる
ここで知ってほしいのが、「自己効力感」という言葉です。
少し難しい言葉ですが、意味はシンプルです。
「自分ならできる!」と思える感覚のことです。
例えば、
今までできなかった片足立ちができるようになった。
うまく追えなかったボールを、目で追えるようになった。
苦手だった動きが、少しずつできるようになった。
こうした経験を積み重ねると、子どもたちは、
「前はできなかったけど、今はできる!」
「頑張れば、もっとできるかもしれない!」
と感じられるようになります。
心理学でも、実際に自分で成功した経験は、自己効力感を育てる重要な要素だと考えられています。
私は、この過程がとても大切だと思っています。
自信がない子どもに「自信を持て!」と何度も言うよりも、自信を持てるだけの能力と成功体験をつくってあげる。
その方が、本人にとって納得できる自信につながるのではないでしょうか。
もちろん、できることが一つ増えたからといって、すべての場面で自信がつくわけではありません。
それでも、小さな成功体験を積み重ねていくことには意味があります。
そして、その経験が次の挑戦につながり、結果としてプレーや行動が変わっていく可能性があります。
これも、私が考える大切なメンタルトレーニングの一つです。
7.HIKYOでは「ビジョントレーニング」で、目・脳・身体の連携を育てています
では、具体的に何をすればいいのでしょうか?
Garage Gym HIKYOでは、目や身体の感覚を使い、脳と身体の連携を育てるトレーニングを行っています。
私たちは、こうした取り組みをまとめて、広い意味で「ビジョントレーニング」と呼んでいます。
一般的なビジョントレーニングは、目の動きや視覚機能を中心とするものですが、HIKYOではそれだけに限定していません。
① 目をうまく使えるようにする
動くものを目で追う、視線を素早く切り替える、目と身体を一緒に動かすなど、視覚情報を運動に活かす練習を行います。
② バランスや姿勢をコントロールする
片足立ちや、身体の傾きを調整する課題などを通じて、さまざまな状況でも身体を安定させる能力を育てます。
③ 目・耳・身体の情報を組み合わせる
色や音などの合図に反応しながら動いたり、ボールをキャッチしたりすることで、複数の情報を使いながら身体を動かす練習を行います。
④ 自分の身体を思いどおりに動かす
身体の位置や力の入れ方を学びながら、目的に合った動作を身につけていきます。
必要に応じて、筋力や柔軟性、身体の動かし方にも取り組みます。
⑤ 呼吸や身体の緊張を調整する
呼吸や筋肉の緊張にも目を向け、身体の状態を調整する練習を取り入れています。
もちろん、すべての子どもに同じトレーニングをするわけではありません。
目の動きが苦手な子もいれば、バランスが苦手な子もいます。
身体の使い方が課題になる子もいます。
だからこそ、一人ひとりの状態を確認し、その子に必要なトレーニングを選ぶことを大切にしています。
こうしたトレーニングによって、目や身体の使い方を改善し、「できる」を増やしていくこと。
そして、その経験を自信やプレーの変化につなげていくことを目指しています。
8.「メンタルが弱い」で終わらせないでほしい
最後に、私が伝えたいことがあります。
・試合でミスをする
・緊張していつものプレーができない
・失敗すると、自信をなくしてしまう
そんな子どもを見たときに、すぐ「メンタルが弱い」と判断していないでしょうか?
もしかすると、目の動きに課題があるかもしれません。
身体のバランスがうまく取れていないのかもしれません。
周囲の情報を捉えながら身体を動かすことが難しいのかもしれません。
もちろん、すべてが身体の問題というわけではありません。
心理的なサポートが必要なケースもありますし、緊張や不安の背景には、指導環境や人間関係など、さまざまな要因が関係することもあります。
しかし、だからこそ、一つの原因だけで決めつけないことが大切です。
私は、これまで多くの子どもたちを指導してきた中で、競技能力が高い選手であっても、基本的な目や身体の動きに改善できる部分が残っていることを何度も見てきました。
だから、なおさら思うのです。
「考え方を変えよう」と伝える前に、もっと確認すべきことがあるのではないか。
「自信を持て」と言う前に、自信を持てるだけの能力を育てることが必要なのではないか。
メンタルを鍛えることは、考え方を変えることだけではありません。
自分の身体を理解し、思いどおりに動かせるようになり、できなかったことができるようになる。
そんな経験の積み重ねも、子どもたちの心を支える大切な土台になると考えています。
9.まずは、お子さんの「目と身体の使い方」を確認してみませんか?
Garage Gym HIKYOでは、45分間の無料体験を実施しています。
体験では、目の動きやバランス、姿勢、身体のコントロールなどを確認し、一人ひとりの得意なことや苦手なことを探していきます。
「うちの子は、どうしてこの動きが苦手なんだろう?」
「練習ではできるのに、試合になるとうまくいかない」
「もっと自信を持ってプレーしてほしい」
そんな悩みがある方は、ぜひ一度、身体の側からもお子さんの状態を確認してみませんか?
今までメンタルの問題だと思っていたことにも、違う角度から取り組むヒントが見つかるかもしれません。
※体験で行うのは運動指導のための評価であり、医学的・心理学的な診断ではありません。
「メンタルが弱い」で終わらせない。
「できる」を増やし、自信を育て、プレーを変えていく。
それが、Garage Gym HIKYOの目指す指導です。
参考文献・研究資料
記事内で紹介した研究は、以下から確認できます。
- Coelho, C. M., & Balaban, C. D. (2015). Visuo-vestibular contributions to anxiety and fear. Neuroscience & Biobehavioral Reviews.
https://doi.org/10.1016/j.neubiorev.2014.10.023 - Singh, B., et al. (2023). Effectiveness of physical activity interventions for improving depression, anxiety and distress. British Journal of Sports Medicine.
https://doi.org/10.1136/bjsports-2022-106195 - Fincham, G. W., et al. (2023). Effect of breathwork on stress and mental health. Scientific Reports.
https://doi.org/10.1038/s41598-022-27247-y - Acuña, C., et al. (2025). Ayres Sensory Integration With Children Ages 0 to 12: A Systematic Review of Randomized Controlled Trials. American Journal of Occupational Therapy.
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https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35766242/ - Bandura, A. (1997). Self-Efficacy: The Exercise of Control. W. H. Freeman.
※本記事では、科学的に確認されている知見と、当施設での指導経験から考えていることを区別して紹介しています。目の動きや身体のコントロールに課題があることが、必ずしも心理的な問題の原因であるとは限りません。